◆ドラム音源をロック調に加工する。

Shirotaさんのコンテンツ「MSIのオーディオ 汚し系を試す」を受けて私なら・・・というバ-ジョンを作成してみました。

まずはMU2000で作成した素のデータをお聞きください。
1分半くらいのテキトーなMIDI打ち込み(フィルイン等にクオンタイズ16分post10%程度)です。
この時点での加工はMU内のドラムパートEQとRoomリバーブ(Send16)のみです。

1stmp3

一聴してお分かりと思いますが、何ともない音質と打ち込みですね。
(ごめんなさいすべてにおいて超手抜きですm(_ _)m)
ではこれをエフェクトでごまかし、ごまかし、ロック調にしてみましょう。
 

◆曲にマッチしない「リアル」なドラム。

試聴機の前に立ち尽くしサンプリングCDを漁り、「おおこれは良い音!」と思い、意気揚揚と購入した音ネタ。
しかし、サンプラーで鳴らして曲に合わせてみると何かが違う・・・。

「生っぽいんだけどなあ・・・何か浮いてるんだよなあ。」
そしていつものハード音源のいつものパッチ、という記憶、あなたにはありませんか?

(※無い方はブラウザの「戻る」を押してください。)

そんなことが一度や二度ではない方。
生っぽいのに浮いてしまうというのは一体どういうことなのでしょう。

・生っぽいが曲にマッチした音色ではない。
・生っぽさを強調したいがためにmixのバランスを取り違えてしまった。


もしも理由がこういったものならば、問題は自分の使い方にあります。
ですから友人に聞いてもらったり、自分で悩めば解決します。


しかし。

・曲にマッチしていて、mixのバランスもいいのに浮いている。

という場合にはどうすればいいのでしょうか。
実は、ここにサンプリングドラムならではの落とし穴があります。


次の波形を見てください。
これは最初に聞いて頂いた1stmp3の波形を表示したものです。
 

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※1stmp3波形



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これはスネアを16分で連打している箇所ですが、
1つめの波形と5つめの波形が同じ図形になっていることに気づかれることと思います。
MIDI信号で発音をコントロールせざるを得ないサンプラーという機械は、
127段階しか強弱のバリエーションが無いベロシティによって統御されます。

多くのサンプラーは一つのノートに一つの波形しか持っていません(例えばE2=強いスネアなど)。
そういった場合、ベロシティでコントロールできる要素は音量だけです。

仮に127・85・67・63というベロシティをコントロールさせた場合、出音Aは次の様に発音されます。


A A A A


実は、実際の生のドラムがこういった形で発音されることはまずありません。
例えばスネアの場合で言えばその音色は強弱と共に、

・リム・打点・角度・共鳴・そしてむしろ気合。

などによって様々に変化します。


808系の音色の場合、変化しない音というのは魅力的です。
それは音色が変化しない方が使用されやすい曲調に合致するからなのですが、
生系ドラムの場合は、音質変化というのが生っぽさを感じさせる非常に重要な点となります。

では、この点を考えながら次のセクションでは実際の加工に入っていくことにしましょう。

◆ダイナミクスをコントロールする。

変化することが生っぽさの正体とわかったところで、ではどうすればいいのでしょうか。
実はドラムの場合、ライブなどに行って聞いていると思っている生の音は決して生の音ではありません。
そこにはPA屋の涙ぐましい職人芸が隠れています。
自分が演奏して聞くドラムの音は勿論「生」です。
しかし観客が聞いている音は、
「マイク→ミキサー→アンプ→スピーカー」
と何段階にも経由された「複製された音」です。

人間の耳という器官は不思議なもので、強調された偽の音を生っぽいものとして感じてしまいます。
音が大きくなればなるほど、その音がどのくらい大きいのかということがわからなくなってしまうのです。
これは人間の耳が音量を直線的にではなく曲線的に感じるという特性から来るのですが、
それを逆手にとってしまう便利な機械が世の中にはあります。

長〜い前置きですが、そう、その機械とは「コンプレッサー」です。
聞こえ方に曲線的な特徴があるのならば、再生するときに曲線的に強調して送り出してしまえばいいのです。
つまり。

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この様に直線的に聞こえている音を、

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この様に曲線的に聞こえるようにすればいいと。

コンプレッサーには音量を変化させる比率(割合)、
変化する引き金の基準値(しきい値、閾値)などの曲線そのものに関する設定と、

音が入ってきてどのくらいの時間が経ったあとに変化させ、
音が出て行ったあとどのくらいのスピードで戻すのかという時間に関する設定があります。

このとき一般的に、

・比率を「Ratio(レシオ)」
・基準値を「Threshold(スレッショルド)」
・変化前の時間を「Attack(アタック)」
・変化後の時間を「Release(リリース)」

と呼びます。

今回私は、ドラムのコンプに普段常用しているMDX2200というハードのコンプを使用しますが、
フリーで入手できるVSTにも良質なコンプはいくらでもありますし(BlockFishなど)、
MusicStudioにも標準で何種類かのソフト・コンプが付属していますので、眺めながら読まれては如何でしょうか。

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※コンプ設定(左からThr=-10db、Ratio=3.5:1、Attack=3ms、Release=50ms)。



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割と古めの携帯カメラなので、全然数値が見えないのは先に謝っておきますが、
今回はこういう設定にしてみました。
PCに取り込む前に私は掛けてしまいますが、その辺りは人の好き好きです。


ポイントは右の写真の時間に関する設定です。
打楽器はオルガンやクラリネットなどの楽器と音の性格が180度違います。
持続音は時間による音量の変化が乏しく、コンプをかけても何の変化も期待できません(試すとわかります)。
これに対し、ドラムの音はダイナミクス(音量の差)が激しい衝撃音です。
(例えばスネアが鳴っている最初の瞬間はほとんどノイズのような衝撃音です。)
実は「いい感じで鳴ってるな〜スネア」と思うときとは、その衝撃音と余韻のバランスがいいときなのです。

自然なスネアの音は次の図のような鳴り方をします。

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(音量)→
■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■
■■■■
■■■
■■




↓(時間)
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一方コンプを掛けた音は次のような鳴り方をします。

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(音量)→
■■■■■■■■■■■■■
■■
■■■■
■■■
■■■
■■
■■


↓(時間)
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無理やり文字で表すと生の音は、
「タンっ」という感じで、
コンプを掛けた後の音は
「タッッーーーン」
という感じと言えますかね。

では、実際に聞いてもらいましょう。
こういう感じです。

compmp3

ちなみにこの時の波形は下のようになります。

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※compmp3波形

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先ほどの波形と比べてみると、衝撃音が強調され、余韻が長く残っていることが確認できることかと思います。
・・・しかし、何か物足りなさがあります。
飛び出た音が何か不自然な気もしますし、
余韻も引っ込んだり、出たりの単調な繰り返しで生っぽさからは程遠いという感じもします。

そこで最後にMusicStudioです。
最後のセクションでは、このしょぼくれた打ち込みが他DAWアプリケーションにはないMusicStudio独特の音に変身します。
 

◆質感を調整し、仕上げる。

さあ、加工もいよいよ佳境です。

・変化はしたけれどもなんだか不自然。
・生っぽいってこういうこと?

という疑問を一気に解消させる便利技です。

MusicStudioにはaepという独自のプラグインエフェクターがそろっています。
これらは他DAWと互換性が無く、MusicStudioでのみ使用できる独自プラグインです。

「・・・何だおまけか」

などとは間違っても思ってはいけません。
何事も試してからです。



今回はFrieveTubeというエフェクターを使ってみます。
これは作者氏曰く「真空管シミュレータ」らしいですが、
そんなカテゴリーに拘ってはいけません。
ここは一発これを「オーバードライブ/ディストーション」として利用しましょう。

まず、先ほどのcompを掛けて録音したトラックを新しいトラックにコピーします。
次に「EFX」をトラックに表示させ、「Frieve others」から「Frieve Tube」を選択します。


FrieveTubeの画面が表示されたら、次の様な設定で掛けてみてください。

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※FrieveTube設定(左から-72db、-6db、1.5:1、±0db、+12db、mode=soft)

Capture031109-02.gif







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さて、結果を聞いてみましょう。
tubemp3

どうでしょうか、ずいぶんザラザラしてきたんじゃないですかね。
パラメータをご覧になるとわかると思いますが、実はこれもコンプレッサーの一種です。
ここではオーバードライブとして使用しますので、スレッショルドは鳴る音ほとんどすべてに影響するように、「-72db」。
レシオはかなり軽めの「1.4〜1.6:1」で使用します。
このエフェクターも設定の肝はやはり「Thr」「Ratio」などの部分です。
FrieveTubeの場合は、特にRatioが重要です。
品の無い歪みになるか、心地のよい歪みになるかはRatio次第と言ってもいいですかね。

「HiRatio」というパラメータは高域の減衰をコントロールするものなのですが、
まあこれはラジカセのトーンコントロールの様に、勢いまかせで弄ってみるとおもしろいです。
音の重心を簡易的に弄ることができるんですね、これで。
FrieveTubeは特に高域の倍音が変化しやすいEFXですので、少し下げてあげたほうが聞きやすいと思います。
また、12dbGainを上げているとこいうことは、結局のところ解像度を2bit下げたのと一緒ですので、ノイズフロアは上がります。
もっともそのローファイならではの味と、微妙に掛けていたRoomreverbの独特な感じも悪くないかななんても思います。

このときの波形は次のような感じになっています。

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※Tubemp3波形

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ハイ、 随分と変わりましたね。
はじめの波形と比べて随分と伸びたり縮んだりしているのがわかるかと思います。

◆最後に

結局生っぽいとは何だったのでしょうか?

私はそこに空間を感じられるか否かだと、思っています。

息遣いが聞こえそうな、そんな空間をなんとか演出したい。
そういう思いがあれば、手法は違ってもミキシング時の創意工夫に繋がります。
今回私が取った手法は途中にハードのcompを挟んでいるために、
厳密には「MusicStudioだけで出来る」ものではありません。

ですが、機材の有無や知識の有無はMusicStudioにとってそれほどの問題ではありません。
確かにMusicStudioだけでは、この音と全く同じ音は出せないでしょう。
でも、よく考えてみれば同じ音を出す必要はどこにもないのです。

HDR時代にカセットMTRを敢えて使ってみるもよし、
bit数を下げてみるのもよし。
それがどんな音になるのかを楽しみ、遊ぶことがMIXING上達の近道であるような気が(個人的には)します。

 

・・・と偉そうな高説を垂れた辺りで、今回のコンテンツの〆とさせていただきます(^^;;;
どうもここまで読んでいただいてホンマありがとうございましたm(_ _)m

 

 

※余談

今回の私の手段はドラムに「せーの!」でコンプを掛けています。
でもこれは言ってみれば邪道です。
スネアはスネア、キックはキックで掛けた方が総合的にいい音になりやすいんですね。
だけど、こうやって遊ぶことって結構おもしろい音への近道なんじゃないかと、私は今でも考えているんですよね。
・・・甘いですか(笑)。

文責・あるびに